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第98回いわき市医師会常磐医学会

 

専門医からの報告

 

甲状腺中毒症の鑑別診断に基づく治療の重要性とそのポイント

 

1にむら甲状腺と消化器クリニック 医師

 2にむら甲状腺と消化器クリニック 看護師

3にむら甲状腺と消化器クリニック スタッフ

 

二村浩史1、蛭田博恵2、遠藤富三2、國玉有佳理2、國玉将輝3、合津千尋3、北村恵智子3

 

【はじめに】2021年4月に甲状腺専門クリニックを開院して、現在日本甲状腺学会認定専門医施設として診療を行っているが、他院において甲状腺中毒症の診断治療において適切ではない患者が散見された。診断を誤ると治療方針が全く異なるためそれらの患者を参考にして診断治療のポイントについて発表する。

【背景】開院後1年10か月間の初診患者1,696人のうち甲状腺関連は1,317人(77.7 %)で甲状腺中毒症は363人( 27.6%)であった。内訳はバセドウ病263人、機能性結節9人、潜在的甲状腺機能亢進症8人、無痛性甲状腺炎49人、亜急性甲状腺炎33人、マリン・レンハート症候群1人であった。常磐病院で行った手術は48人で、内訳は乳頭癌8人(うち1人はバセドウ病合併)、濾胞癌1人、NIFTP 2人、濾胞腺腫4人、腺腫様甲状腺腫22人、機能性結節1人、バセドウ病6人、副甲状腺腺腫4人であり、中毒症関連手術は8人(16.7%)であった。

【結果】適切な診断治療がされていなかった例として、無痛性甲状腺炎をバセドウ病と診断してMMIが投与されていた患者、亜急性甲状腺炎を咽頭炎と診断し抗生剤のみが投与されていた患者が主に散見された。特殊例としては乳頭癌合併に気づかずバセドウ病治療のみされていた患者、TSBAb陽性甲状腺機能低下症からTSAb陽性に変化して中毒症を来たした患者、亜急性甲状腺炎とバセドウ病の合併の患者などがあった。

【診断のポイント】甲状腺中毒症を呈するものに甲状腺機能亢進症と破壊性甲状腺炎がある。代表的疾患として、甲状腺機能亢進症にはバセドウ病、機能性結節があり、破壊性甲状腺炎には無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎がある。診断にはまず中毒症かどうかTSH, FT3, FT4の採血、頸部エコーの情報が必須である。中毒症である場合、TRAb, Tg, CRPを測定し、TRAb高値であれば確からしいバセドウ病、エコーでびまん性腫大や血流増加を認めずTg高値なら無痛性甲状腺炎の可能性大、エコーで痛みを伴う低エコー域を認めWBC正常、CRP高値なら亜急性甲状腺炎、そのいずれでもなく結節のみ認める場合は機能性結節を疑う。機能性結節を疑う場合、無痛性甲状腺炎を否定するため3か月後に再度TSH,FT3,FT4を測定し、TSH低下が継続するなら99mTcシンチで機能性結節の有無をみる。TRAb陰性のバセドウ病もあるのでバセドウ病を強く疑う場合はTSAbを測定する。いずれも陰性で、なおバセドウ病を強く疑う場合は99mTcシンチで無痛性甲状腺炎との鑑別をする。パルスドプラエコーでもVmax 50cm/sec以上ならバセドウ病を強く疑う。最近TSBAb陽性萎縮性甲状腺機能低下症からTSAb陽性甲状腺機能亢進症に変化した患者や亜急性甲状腺炎とバセドウ病の合併の患者を経験した。3か月おきのTRAbやTSAbのフォローや他疾患との合併も念頭に入れた診断が重要である。無痛性甲状腺炎と診断した場合、甲状腺ホルモン増加による中毒症のあと一旦機能低下になり、その後正常に回復することが多いので安易にLT4投与は行わず3か月おきに少なくとの半年はホルモン採血でフォローする。無痛性甲状腺炎は橋本病の増悪で来たすことがあり、数か月後に機能低下症となることもあるためTgAb, TPOAbを測定し橋本病の素因の有無を調べておく。癌の合併を見逃さないためにも必ずエコーをする。

【治療のポイント】甲状腺中毒症の場合、診断確定までは喘息既往がなければβブロッカーを処方する。個人的には朝1回で済むテノーミン50mgを処方している。バセドウ病でFT4が5ng/dl以上ならMMI 30mg/朝1回、5ng/dl未満なら15mg/朝1回で開始するが、妊娠希望やその可能性がある場合を含めて妊娠5週から9週まではPTU に変更する必要がある。副作用チェックのため必ず投与後2か月間の2週おきの採血を行う。PTUでは投与数か月後からANCA抗体獲得の有無を採血や検尿でこまめに確認する。MPO-ANCA陽性となった際にはKIに変更など考慮する。KI投与ではエスケープ現象に注意する。いずれもホルモン値が改善したからと言って安易な投与中止をせず、データ、TRAbとTSAbを測定しつつ漸減していく。薬の効果が不十分、飲み忘れが多い、副作用がある場合は手術やアイソトープ治療を考慮する。無痛性甲状腺炎での一時的な機能低下ではLT4投与の必要はないが、橋本病の素因がある場合は橋本病を発症し機能低下となることがあるので半年しても機能が戻らないときはLT4投与を考慮する。LT4は食後ではなく起床時投与が望ましい。亜急性甲状腺炎では躊躇せずプレドニン15mg 2週投与から5mgずつ2週おきに漸減して、6週後にエコー採血フォローをする。クリーピング現象を来たすことがあり注意を要する。機能性結節は原則手術で切除する。個人的にPEITは推奨しない。癌合併を疑う場合は乳頭癌であれば5mm以上ではFNACを施行する。

【まとめ】甲状腺中毒症の診断治療には十分な知識と注意して患者をフォローしていく必要がある。甲状腺中毒症=バセドウ病ではないという事を認識していただきたいと思います。診断や治療でお困りの時はいつでもご相談ご紹介してください。

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